銀色の残像


【6】

「政宗様、いかが致されましたか?」
 不意に、運手席の小十郎の声で政宗はふと我に返った。
「ご気分が優れないので?」
「・・AN?」
 車の助手席で先ほど小十郎から渡された資料を握り締めたまま、
政宗は自分でも気付かぬうちに胸を押さえていることに気付いた。
「ご気分が優れないようなら一旦社に戻りますが」
 小十郎が政宗を気遣うようにそう聞いてくる。
 政宗は、意識がタイムスリップしてしまっていた自分に対し眉間に小さな皺を刻んでしまう。
 すると隣にいる小十郎はいつもと違う政宗に気遣う気配を伺わせた。
「大丈夫だ大したことじゃねえ、ところで小十郎、このビルに入っている店舗の詳細も
調べがついているのか?」
 政宗は、小十郎から受け取った資料越しに目の前の銀色の髪に眩しいかのように目を細める。
 すると政宗の前に違う資料の封筒が差し出された。
「たぶんそう来ると思いまして、一応調べておきました」
「HA、相変わらず抜かりはねえな」
 政宗は渡された封筒から書類を抜き出すと、流すようにそれに目を通していく。
 小十郎から受け取った店舗などの書類は政宗が想像していたよりも少なく、
その殆どが空き部屋となった雑居ビルの状況を表していた。
 その時、不意に政宗の視線が書類から外れるように目の前の光景をとらえた。
 先ほどまで視線の先で忙しそうに動いていた銀色の髪人物の元に数人の人影が現れ囲まれて
言葉を交わしている。
 一見ガラが悪そうな雰囲気の集団に絡まれて何かのイザコザか?と一瞬思わせたのだが、
 その中心にいる銀色の髪は楽しそうな顔で笑っている。
 政宗にはその光景に見覚えがあった。
 高校に進学した後、政宗とはあまり接点をもたない派手なグループがいたのを
今も鮮明に思い出せる。
 なぜならそのグループの中心は目の前の銀色の髪の人物で、皆親愛を込めたように
銀色の髪をこう呼んでいたからだ。
「アニキ」と。

「アニキ〜、なんか面白いもん入荷したっすか?」

 少しあけた車の窓の隙間から、大きな威勢のいい声が入り込んでくる。
 政宗はその声に更に眉間の皺を深めながら書類に目を戻すと、小さな声で呟いた。
「オリエント雑貨・Pirate Ship、・・HA、海賊船とはな・・・、なかなか随分と
豪気な名前をつけてるじゃねえか・・・なぁ、長曾我部・・・」

 政宗の視線の先で賑やかに談笑する集団の声は、昼の町に大きく響く。
 そんな楽しげな声の波は、政宗のいる車の窓の隙間から政宗の元へと溢れ続けたのであった。


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