銀色の残像
【4】
「あ・・ごめん聞いちゃいけなかったかな?」
少年は政宗の視線にすぐにそう言った。
政宗はその言葉にハッとしたように少年から視線を反らせる。
「ああ、別に悪いことはねえけど、今までそんな聞き方した奴いなかったからよ」
政宗がそう言うと、少年はニコリと小さく笑ってこう言った。
「じゃあ、あいこだね、さっき僕の髪のことを君が聞いたときと同じだ」
政宗はその言葉に思わず少年の顔を見上げる。
すると、長曾我部と名乗った少年は、最初のイメージとはうってかわって、人懐っこい顔になった。
そこで政宗は、見た瞬間から気になっていたことを聞いてみた。
「悪いけど、気になるから聞くわ、その髪染めてんの?」
政宗がそう言うと、少年は少しだけ呆気にとられたような顔になる、だがすぐにまた
元の笑顔に戻ると自分の髪を摘み上げてこう言った。
「この髪?これは生まれつきなんだ、アルビノっていうの、元々色素が薄いんだよ、
髪だけじゃなくて左目もそう、ほらこっち側赤いだろ、色素が薄いから赤いんだ、
だからこっち側の目はほとんど視力が無くってね、君の右目は一時的な病気とかなの?
なんだかその眼帯があまりにも自然に馴染んでたから最初気付かなかったんだ、・・あぁ、
別に悪い意味で言ったんじゃないから気を悪くしないでよ」
少年は自分の言った言葉を補足しながらそう言う。
政宗はその言葉を聞きながら人懐っこい顔で喋る少年にほんの少し苛立ちを覚えた。
始め見たときは、まるで人を寄せ付けないような空気であったのに、ほんの少し言葉を交わす
だけで、これほど警戒心を解いてしまう事が政宗には考えられなかったからだ。
政宗は不意に、シャーペンをくるりと手の上で回した。
「へぇ〜君器用だね、」
少年はそれに気付いた様に目をやる。
すると政宗は、突然今までとは違う冷たい口調でこう言った。
「悪い、俺、今勉強してんだわ、一応受験生なんでね、せっかく話が盛り上がりそうだったんだけど」
政宗の突然の変化に少年の目に驚きの色が広がる。
政宗は直ぐにその表情に気が付いた、しかし少年を見ることなくもう一度シャーペンをくるりと回しもう一度言う。
「悪いな!・・・」
「あ・・あぁ、ごめん、つい、友達でもないのに図々しかったね、ごめん・・・じゃあ・・」
少年は、慌てるようにその場を立ち去る。
政宗は、そんな少年の少しだけ寂しそうな姿を見ると、自分の中にも落胆と後悔の気持ちが広がったことに少々驚いた。
だがそんな気持ちを表情に出すことはできないまま、自分の前を立ち去る、少年の後ろ姿を、そのまま見送る。
「はっ・・・・長曾我部・・・・か・・長え名前・・・」
少年が立ち去った後、今覚えたばかりの名前が口を突いて出た。
政宗は、先ほど少年が立ち去った通路の先を眺めてみる。
少年が消えた通路に、先ほど目に焼きついた銀色の髪を捜してみるが、もうすでに見る影も無い。
政宗は、手に持ったシャペンをもう一度回しかけて途中で止めた。
そして、通路を眺めたままの自分に気付くと、なんで苛立ったのか?なんで追い払ったのか?なんで気になるのか?
自分でも分からない感情をどうすることもできず、開いていたノートに手に持っていたシャーペンの先を落とすと、
グシャグシャグシャと意味不明の線を書きなぐった。