銀色の残像


【3】

「何?」
「え?」
 目の前の銀髪に目を奪われていた政宗は、急にそう振ら
れて少しだけ焦った。
「俺の髪になんか着いてる?」
 落とした本を拾い上げ、政宗の前に立ち上がったその少年は不機嫌そうに政宗を見る、
座っていたときには気づかなかったが、政宗より背が高くだが痩せているようにも見え
るほど、細くひょろりとしていた。
「え、ああ、悪い、いや、髪の色が凄えなと思って」
 政宗が正直にそう言うと、その少年は不機嫌そうな顔を少しだけ緩めて言った。
「へぇ、君、正直なんだ、普通、他の人たちはだいたい、話をはぐらかすのに」
「そうなのか?」
「だいたいはね」
 少年はそう言うと、政宗の前を横切って本棚の奥へと進んでいった。
 政宗は、振り返り少年の後ろ姿を見る、高い本棚で暗い通路の中でも少しの蛍光灯の
明かりを受けて、その銀色の髪は揺らめいているように見えた。

**  **  **  **

「これ、君の物?」
 席に着き、読み物に目を落としていた政宗の後方から、声がかけられた。
「あ?」
 座っている政宗の頭越しに目の前にシャープペンが現れた。
 驚いて振り返ると、先ほどの少年がシャーペンを手に政宗の後ろに立っていた。
 政宗は、目の前のシャーペンの柄を確認すると、自分のペンケースをのぞき込み、
1本足りないことに気付いた。
「ああ、そういや持ってたな、さっきぶつかった時に落としたのか、サンキュー、
え〜と・・」
「長曾我部」
「え?」
「長曾我部って言うんだ俺」
「へ・へ〜長え名前だな」
 政宗は名前を聞こうと思っていたわけでは無くただ言葉が続かなかっただけなのだが、
自分から名乗ってきた少年を見ると、先ほどとは違い、少し人懐っこい顔をしていた。
「君は?」
 少年が政宗の名を聞いてきた。
「え?ああ?あ〜、俺は伊達」
「ふうん、短い名前だね」
 少年は何か言いたそうに政宗を見る。
「何?なんかある?」
 少しつっけんどうな感じに政宗がそう言うと、今度は少し少年の方が慌てた顔をした。
「え?あぁ、そうじゃないけど・・・」
 なにか言い難いようにしている少年は、ちょっとだけ間を置いて政宗に聞いてきた。
「右目悪いの?かなと思って」
「あ?!」
 政宗は長曾我部と名乗ったその少年を、思わず睨むような目つきで見てしまった。



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