銀色の残像

【2】 

 政宗が市の図書館に行ったのは、その日が始めてではなかっ
た。
 いつも通う、というほどでもないのだが時々訪れる、だからとい
って、政宗が勉強熱心というわけではない、何故かと言うと、家
に居ると親代わりに政宗の面倒を見ている小十郎が、『勉強をし
ろ』とうるさいからだ。
 政宗は別段勉強が嫌いなわけではない、どちらかと言うと勉強
は出来る方である、だが、時期も時期なもので、周りが受験勉強
一色の中、一人涼しげな顔をしている政宗に、周りの者が焦りを
覚えてついつい口うるさくなってしまうのだった。
 政宗は、とりあえず持ってきた勉強道具を空いた席に置くと、
ゆっくりと周りを見回した、時期的なものなのか、いつもより人が
多く居る、政宗は席に座ると持ってきた参考書とペンケースを取
り出し広げた。
 
 図書館という場所は独特の雰囲気を持っている、人がそこそこ
に居るにもかかわらず静かで、だが静か過ぎるほど静寂でもなく
そこにいる人間が適度の距離を互いに崩さない。
 政宗は、不意に顔を上げた、もともと勉強が目的で来たわけで
はないので集中力が続かない、持っていたペンをくるくると器用
に指で回しながら周りの様子を伺った。
 程度な距離感の臨席や前の席、皆それぞれに読書をしたり、調
べ物などをしている。
 政宗は、続かぬ集中力の息抜きに、読み物を取ってこようと席
を立った。
「?!」
 立ち上がると視界の端に思わぬものが入り込んだ。
 先ほどまでは気付かなかったが、政宗の座ってる並びの席の奥
に一人の少年が座っている、歳は同じ頃だと思われるその少年か
ら政宗は目が離せなくなってしまった。
 政宗の目を惹き付けるその少年は白に近い銀の色の髪をしてい
た。
 今時、茶髪など珍しくはないのだが、その少年の髪は染めたよ
うには見えなかった、しかも座っている席は奥の端にある一つだ
け独立したように置いてある席で、本人的には目立たぬようにそ
の席に座っているのかもしれなかったが、壁の上部に取り付けら
れた窓から差し込む光がその髪を照らして一層銀色のように見え
ていた。
 ふと、その少年が政宗の視線に気付いたのか顔を上げた、政宗
は慌てて視線をそらし席を外れる、そしてその少年が自分の方を
見ていることに気付いていないように装いながら、そのまま読み
物を置いてあるコーナーへと進んでいった。

「うぁ・・」
 政宗が読み物のコーナーから出てくると、出会いがしらに誰か
にぶつかった。
「おぁ・・Hey、大丈夫か?」
 政宗はぶつかった相手に咄嗟に手を差し伸べた。
「あ、あぁ、大丈夫」
 ぶつかった相手は、政宗にそう答えながら下にしゃがみ込む。
 政宗もぶつかった相手につられるように下を見た。
『ドクン』
 政宗の心臓が音を立てた。
 落としてしまった本を拾う目の前の頭が、銀色に輝いていた
からであった。



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