銀色の残像
【1】
気付くと、そいつはいつも目の前にいると、政宗はその時思った。
目的の事務所に向かう車が、路上のパーキングスペースに留まる。
「政宗様、此処が先ほど話した事務所になります」
運転していた小十郎はそう言って政宗に事務所の場所を指で指し示す、
小十郎の指の先には昭和の香りの残る古い4階建ての雑居ビルがあった。
政宗が小十郎の示すビルを見ると、一階には小さな店舗が並び、その
上2階からは貸し事務所になっているのが見える。
しかし、一目でそのほとんどの部屋が「空」であるのが判る。
今日此処に来たのは、政宗の父親の経営する建築会社が1年前にこの
ビルの補修工事をした代金が今だ支払われていないからであった。
政宗は一見しただけで、その理由が判りはしたものの、とりあえず仕
事としてこのビルのオーナーと話し合わなければならない。
政宗はビルの利用価値を探すように、上から下まで見回した。
小十郎がそんな政宗に資料を渡すと、現状と付近の土地状況を説明す
る。
政宗の仕事は、父親の会社に支払いが滞る相手先の対処であった。
政宗は小十郎の説明に耳を傾けながらビルの様子を伺う、するとふと
並ぶ商店の一つに目が留まった。
留まった目の先には、色鮮やかな雑貨が所狭しと並べられている、日
本の商品には余りないその色合いの雑貨類は輸入雑貨のように見える。
だが、政宗の目が留まったのは、その雑貨類ではなく、その店先で色
鮮やかな商品を並べている一人の人物にであった。
「あいつは・・・」
そう呟いた政宗の目に映る人物は、背が高くガッシリとした体格に目
を引く色素の薄い肌と髪、光の加減で銀にも見えるその髪に、政宗の目
が留まったまま動かない。
「政宗様、いかがいたされた?」
小十郎がそんな様子の政宗に声をかける。
「A?AA、なんでもねえ」
小十郎の言葉に我に返った政宗は、説明を再開した小十郎の声を聞き
ながら、目の前で忙しそうに動いているその銀色の髪をまた見る。
政宗はその銀色の髪に見覚えがある、いや、見覚えがあるというよりも
忘れられないでいるのがというのが正しいかもしれない。
そういえば最後に見たのは何時だったかと考える、すると最後ではなく、
最初に見た時のことが脳裏に蘇った。
初めて見たのは中学の時だ、受験シーズン真っ最中の冬の市の図書館
だった。