暖かくなってきました。天気のいい日は、縁側で〜。

** 『居眠り』 **

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 春の日差しが心地よい昼下がり。
「コトン・・」
 元親は、手に持っていたはずの重機の模型と床板が
あたる音で、目を覚ました。
「んぁ?ありゃ?」
 起きたて特有のボヤけた視線に手を翳すと、持って
いたはずの模型の形に固まった手がぼんやりと見えた。
「ありゃぁ、眠っちまってたか?」
 ぽそりと、そんなことを呟きながら、ボヤけた視線
のままその手を眺めていると、少しづつぼやけた形が
見慣れた手へと変化してくる。
 元親は、自分の手に戻りつつある手を、感覚を取り
戻そうとやわやわと動かしてみた。
「うわぁ・・」
 動かした途端に『ジン』と痺れる感覚に、いったい
どのくらいの間、居眠りしていたのかと考える。
 すると、ふと手の痺れ異常に、重たいモノが背中に
寄りかかっているのに気付いた。
「ん、あぁ?」
 元親は、首を捩らせ、後ろを伺う。
 無理無理捻る元親の視線に、斜めに跳ねる髪が写っ
た。
「政宗?」
 体をズラせば倒れてくると思われるほど、ぐっすり
と眠っている。
 政宗は、元親が居眠りに落ちるまでは、政務に追わ
れ室内にいた筈であった。
 元親は、いつの間にかそこでぐっすりと眠ってしま
っている政宗を見て、少しばかり気が引ける思いがし
ていた。
 三ヶ月に一度、早いときには二ヶ月に一度は奥州に
訪れるようになった元親を、政宗は必ず屋敷で出迎え
る。
 一国の長である政宗が、ましてや他の国を束ねよう
と動いている政宗が、そうそう国でじっっとしていら
れるはずもないと思う。
 だが、元親が訪れる時には必ず屋敷で元親を出迎え
るのだ。
 元親は、元親の相手をしながら、その合間に政務を
こなす政宗を見て、訪れるごとに無理をさせているの
ではないかと思い始めていた。
「なぁ、俺ぁおめえの重荷になってんじゃねぇかぁ?」
 元親は小さく呟くきながら、目の前にかざした手を
眼の端に映る政宗の髪へと持っていく。
 政宗の性格と同じに、真っ直ぐだけど斜めに跳ねた
髪が元親の手に触れる、すると政宗の髪を触る元親の
手を、温かな手が上から包み込むように握ってきた。
「HEY、元親、何可愛いことを言ってやがる」
 政宗が眠っているとばかり思っていた元親は、握り
込まれた手と声に驚いたように小さく声を上げた。
「あぁ?政宗、起きてたのかぁ?」
 背中合わせに凭れる政宗に、元親が焦る用に照れて
いるのが背中伝いに伝わってくる。
 政宗は確かに先ほどまで、元親と一緒に居眠りに落
ちていたのだが、元親の落とした模型の音で政宗も目
を覚ましていたのであった。
「HA、いや、俺もすっかり眠っちまってたぜ、まっ
たく今日はいい天気だな」
 そう言いながら、政宗は凭れる元親の肩に反らせる
ように頭を乗せる。
 元親はそんな政宗に、ちょっと間を置き言った。
「なぁ政宗、俺が来ると・・なんだ・・・、いろいろ
とおめえに無理させてんじゃねえか?」
 頭を反らせた政宗の左目に、元親の頬が映る。
 暖かい春風が、元親の銀髪に遊び、揺らめくように
動くその影を頬に映す。
 政宗は元親の問いを受け流し、風に靡く影を見てい
た。
 元親は、自分の問いに何も言わぬ政宗に、戸惑うよ
うに顔を反らして様子を伺う。
 普段は豪快な素振りのくせに、その中に隠してある
本来の優しさを政宗には隠さず表す元親に、政宗はニ
ヤリと顔を歪ませる。
 政宗は、まだ握ったままの元親の手を更にギュと強
く握り直し言った。
「HA、おめえを重荷と思うなら、とっくに小十郎が
おめえを追い出してるぜ」
 政宗の言葉に、元親は安心するように
『あぁ、それもそうだなぁ』
と呟く。
 政宗はそんな元親に続けるように言った。
「おめえと居る時間が、俺には Peace time なんだ」
 元親は政宗の南蛮語の意味が解らず首を傾げる。
「あぁ?なんだ?そりゃぁ?」
 政宗は、そんな元親に『HAHAHA』と笑うと、
元親の肩に乗せていた頭を上げて、握り合った手は
そのままに、隣に座り直した。
「HAHA、後で教えてやるさ、だから、もう少し
だけこうしていようぜ」
 そう言って、政宗はまた目を瞑る。
 元親も政宗の肩に寄り添い目を瞑る。
 暖かい、春の日が二人を包むように降り注ぐ。
ひと時の安らぎを、二人は噛締めながら共有していた。

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2010/3/27  いちご松林檎

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