七夕パーティー
「はぁ〜〜、今日は天の川は見れねぇなぁ」
元親は、溜息混じりにそう呟きながら、曇った空を仰ぎ見た。
数枚の短冊を付けた小さな笹をかついだ元親が、笹が折れないようにと自分の部屋の玄関を慎重に潜り抜ける。
片手に七夕の笹、片手には酒やジュースや菓子やらが入ったビニールを提げていた。
今日7月7日は七夕の日、たまたまこの日に休みを取っていた元親の家で七夕パーティーをしようと慶次が言い出したのは、つい2日前のことだった。
「あぁ?七夕パーティー?なんだ、そりゃぁ子供の祭りかよ」
「はは、子供の祭りじゃないけどさ、元親その日に休み取ってんだろ」
「いや、俺はこの左目の年に一度の検診のために休み取っただけだ」
「検診?・・まあまあまあまあ、いいじゃない、たまにはぱ〜〜〜っとパーティーやろうよ、年に一回しか会えない織姫と彦星を、『二人』で応援しようじゃない、ね元親!」
こんな会話を携帯電話で慶次としたのが2日まえ、そしてどこでどう知ったのか、翌日に俺も混ぜろと元親に政宗と元就から電話&メールが入ったのであった。
「はぁ、こんなもんでいいかぁ?」
元親がそう言いながら笹を、スチールの棚にくくりつける。
先ほど、近所のスーパーに買い出しに行った際、近所の商店で小さい七夕笹を売っているのを見かけた元親は、七夕パーティーを盛り上げる為にそれを買ってきたのであった。
「なんか、寂しいかぁ?」
部屋の中に飾られた七夕の笹を見てそう言う元親。そんな笹には、申し訳程度に一枚・二枚・三枚の無地の短冊が付けられている。
元親はそれを眺めると、思い立ったようにマーカーを持ってくると何かを短冊に書き始めた.
『ピーンポーン』
元親が短冊の一枚に書き終える頃、玄関のチャイムが鳴りそして、それと同時に賑やかな声が部屋になだれ込んできた。
「元親〜〜、お待たせ〜〜」
「Yo〜、豪華なのを作ってきたぜ」
「・・・・ツマミだ・・・・」
「元親、おじゃまだ」
「・・・・・」
慶次に政宗、そして元就と続く後ろに最近知り合いになった近所の家康と三成の二人も混ざっている。
そして、それぞれが手に料理などを抱えていた。
「おぉ・・・賑やかだな・・・っていうか、なんか人数が増えてねぇか?」
元親は、素朴な疑問とばかりにそう言ってみる。
「ああ、家康と三成は俺が誘ったんだ、だって二人っきじゃなくなったんなら、人数多い方が楽しいじゃない」
慶次がにっこりと笑いながらそう言う横で、元親は、慶次の言葉の内容もであるが、けして広いとはいえない自分の家のリビングに大柄な男達が押し寄せている光景に少々引きつった笑顔を作った。
「ところで、元親、その笹買ってきたの?」
持って来た料理などをテーブルの上に並べ終えると、慶次が元親に聞いてきた。
「おお、どうだぁ?七夕らしいだろ」
すると元親は慶次にニカリと笑いながらそう言う。
「HEY、だけど、短冊3枚じゃ、ちょっと寂しくねえか?」
政宗が元親が思っていたことと同じ事を言う。
すると、それを聞いていた慶次がどこからともなくある物を取り出した。
「じゃあさ、もっと短冊付けようよ」
慶次が取り出したものは、色とりどりの短冊が袋に入った七夕セット。子供の頃にはよく見たそのセットに皆が『懐かしい〜〜』などと声を上げる。
そんな懐かしい七夕セットの短冊を慶次は皆に1枚づつ配った。
「はいはい、皆、これに願い事を書いて〜〜〜」
「OK〜、・・だがよう慶次、願い事はいいけどよ、ただ普通に書くのはつまらなくねえか?」
不意に政宗が短冊を眺めながらそう慶次に言う。
すると、慶次は政宗の顔を見ると、ちょっとだけ考えるような素振りを見せて言った。
「あ〜、確かに、この状況でストレートに願い事だけってのは面白くないか・・・・・そうだなあ・・・・じゃあさ、こうしようか、此処は元親の部屋だから、願い事の前に『私は元親と・・』っていう前置きを入れて書いたら面白いんじゃない?」
「な、なんだぁ、その前置きわぁ〜〜・・・・」
少し考えたわりに、出てきた内容がそれだった事に元親が呆れ驚いたように声を上げる。
だが、元親の声とは裏腹に、他の皆はそれぞれが納得したようにウンウンと首を縦に振るとそれぞれが言った。
「Ou〜、いいねえ、それ面白そうじゃねえか」
「うむ、確かに面白いかもしれぬな・・・」
「ようし、元親とだな!」
「元親・・と・・・・」
何故そんな変な前置きに皆が納得しているのか元親は分からない。だが何故か皆が真剣に短冊を前に考えているそんな姿に、
元親は、今日のパーティーが異様なパーティーにならなければいいのにと心の中で祈った。
***みんなの書いた短冊***
慶次「私は元親と、今度は二人っきりでパーティーしようね!」
政宗「私は元親と、××で○○な夜でOnlyしようぜ!!!(すみません此処にかけません・汗)」
元就「私は元親と、と言うよりは、貴様は我の言うことだけ聞いておればよい!」
家康「私は元親と、一緒にパーティー嬉しいぞ!でも今度は二人でしよう!!」
三成「私は元親と、友!以上に・・・なる」
「この短冊を、俺の部屋に飾るのかぁ?・・・・」
揃いも揃って、奇妙な願い事の短冊。
だが、元親の気持ちとは裏腹に、七夕の夜は賑やかに更けていったのであった。
「ところで元親、この人誰?」
「ん?・・・・・げげ、松永先生!」
「これはこれは、私が元親君の左目の主治医松永です。」
「なんで?此処に?」
「卿とは、一年に一度しか会えないからね、もう少し一緒に居たいと思ってね、それに今日は七夕だしねえ」
「あぁ、そうか・・・って、勝手に入ったの?」
「いや、部屋の前に居たら、彼が入れてくれたよ」
「元親、知り合いは皆絆で繋がってるんだ!ういっく・・・」
「家康〜〜〜〜〜、酔いすぎだぁ〜〜〜」
このあと、曇りで見れなかった天の川は、三成が持って来た室内用プラネタリウムで見ることが出来ました.
お陰でちょっぴり株の上がった三成は、元親にナデナデしてもらえたとか。
(政宗がすんごい目付きで睨んでたらしいけどね)
ちなみに、元親が書いた短冊は、「空が晴れて天の川が見れますように」でした。
おしまい。