【2011年バレンタイSS・バレンタインの夜に・・】


2月14日夜のこと・・・・。

『ドッガ〜〜〜〜〜〜ンンン!!!!!』
「元親、居る〜〜」

 元親の部屋のドアが激しい破壊音を立てたかと思うと、それに続くように両手に荷物を抱えた慶次がやってきた。

「お・・おぅ・・居るけどよぅ・・・」
 ドアを蹴破っておきながら、居るも居ないもねえだろぅ、と心の中で思いながら元親はそう言った。
「ああ〜〜元親、居たね〜〜良かったよぉ」
 多分居ないことを想定していなかったであろう口調でそう言うと、慶次は当たり前のように靴を脱ぎ部屋に上がりこんできた。
「なんだぁ、その荷物はよぅ・・・」
 元親の言葉に慶次はニコリと笑いながら部屋の中を見回す。
 そして、テーブルの上のチョコを見つけると更にニ〜ッコリと微笑んだ。
「元親、バレンタインチョコいっぱい貰ったんだね」
「あぁ?いっぱいってほどじゃねえだろ、5個?6・7個あるか、なんだぁ、そん中にゃあおめえの姉ちゃんがくれたのも入ってるぜ、まぁ全部義理チョコだなぁ」
 元親は嬉しいのか嬉しくないのか自分でもわからないといった風にそう言う。
 そんな元親をよそに、慶次は両手の荷物をドカリと降ろすとテーブルのチョコを手に取って眺め元親に聞いてきた。
「ねえ、元親はこのチョコをちょっとづつ食べたい方?」
「あぁ?」
 慶次の問いに元親は拍子抜けしたような声を上げる。
「元親はさあ、チョコとかちょっとづつ食べたい方かな、それとも一気に食べちゃう方かなと思ってさ」
 慶次が何が訊きたいたいのか元親はいまいちわからなが質問の意味は解るのでとりあえず答えることにした。
「いやぁ、別にちまちま喰う方じゃねえがよぉ、一度に幾つも喰うほどでもねえぜぇ」
 慶次は元親の答えにニコリと笑う笑顔の眉間にちょっとだけ皺を作った。
「あ〜、ふつうはそうだよねえ、ごめん俺の質問が悪かったよ、え〜とストレートに言うね。元親、このチョコたちを今日一気に食べてみない?」
 先の問いとはちがい直球に訊いてきた慶次に、元親は言葉を失った。
 バレンタインの夜にいきなり押しかけてきて、貰ったチョコを全部食べないかと訊く慶次に元親は驚いたと言うか、ほんの少々拍子抜けたというか呆れたというか・・・。
「慶次、おめえいったい何がしたいんだぁ?チョコを全部って、しかも大荷物まで持ってきてよぅ」
 元親は慶次が持ってきた荷物の中を覗き込みながらそう言って慶次を見た。
 そんな元親に慶次が満面の笑みを作ったかと思うと、元親が覗く荷物の中から果物や菓子そしてなにやら玩具が入っているような箱を取り出し言った。
「えへへ、元親これ知ってる?チョコフォンデュが家で出来るんだよ〜」
「チョコフォンデュぅ?」
 嬉しそうな慶次とはうらはらに、元親はチョコフォンデュという言葉に眉間に皺を寄せる。
「なんだぁ、チョコフォンデュてあれか?最近女子の間で人気のチョコを溶かしたとか言うやつかぁ?」
「そう、それ!だってさチョコフォンデュなんてさあ、普通お店でも女の子が集まるところでしかやってないでしょ、でも俺ね一回やってみたかったんだよね〜、だからさあ、今日はバレンタインと言うことで、元親一緒にチョコフォンデュしよ〜よ」
 『しよ〜よ』と言いながら慶次は、フォンデュを作る準備に掛かるように腕まくりをする。
 そんな慶次を見て、元親は諦めたように言った。
「俺がやらねぇと言うことは想定してねえんだろぅ、まったくよぉ」
 元親の言葉に笑顔を更に緩ませた慶次は『そんなことないよ』と言いながらチョコの包みをあけはじめた。


「はい、準備オッケ〜、さあ、食べれるよ元親」
 嬉しそうにそういって笑いかけてくる慶次に元親は若干呆れと後悔の念を抱く。
 『チョコフォンデュをしよ〜よ』と慶次がおしかけてきてから、もう1時間は経っていた。
 元親は料理が得意ではない、そして慶次も料理といえる料理は作れない。
 そんな二人が準備したチュコフォンデュはおせいじにもおいしそうとはいえない雰囲気が漂っている。
「さあ元親、チョコフォンデュはじめるよ、最初は何につけてみる?」
「あ・あぁ・・・・とりあえず果物あたりからやってみてたらいいんじゃねぇか?」
「ああ、そうだねえ果物いいよねえ、じゃあ元親にはこの苺にっと、はいチョコつけたよ、さあどうぞ」
 満面の笑みの慶次が元親に差し出してくれたチョコがけの苺、元親はそれを受け取りながらマジマジとそれを眺めて言った。
「・・・なぁ、慶次、チュコフォンデュのチュコはこんなんでいいのかぁ?」
 不信そうな元親の声に慶次は渡した、チョコがけの苺を見た。
 元親の手に握られたフォークの先の苺には、なにやら粒状のものや白い色も混じったチョコが絡まっている。
 慶次はそれを確認するとちょっとだけ考えて、思いだしたかのようなリアクションで言った。
「ああ、チョコ溶かすときにね、いろんなチョコを入れちゃったから、たぶんその粒はパフかクランチアーモンドで白いのはホワイトチョコの部分だね、あとチェリーのジェリー入りのとかも入れたからさ、その味のところもあるかも」
 まるでお子様のいたずらかなにか?そんなチョコの種類に思わず『闇鍋か?』と突っ込んでしまった元親であったが勇気を出して一口かじりついてみた。
「おぉ、案外美味ぇぞぉ!」
 元親が思わずそう言う、まあ所詮全部チョコであるからそれはそうであろう。
 そんな元親を慶次は嬉しそうに眺めるとカットされた果物の皿から今度はある果物を取り元親に見せた。
「苺美味しかった?よかった!じゃあ次はこのバナナとかどう?チョコバナナになるからきっと美味しいよ」
 慶次はそう言うと、半分にカットし割り箸をぶっ刺したバナナにチュコをつけはじめる。
「おいおい、そのバナナちょっとデカく切りすぎたんじゃねぇかぁ?あんまりチョコをつけすぎんなよ、下に垂れると絨毯が汚れちまうからよぉ」
 元親の心配を他所に慶次はバナナにたっぷりとチョコをつけてている、そしてまるで棒アイスのようにチョコで包まれたバナナを元親に差し出した。
「はい、元親できたよチョコバナナ!」
「お・おぅ、ありがとよ、でもこれやっぱりデカくねぇかって、おい、やっぱチョコ垂れてんぞぉ!!!」
 差し出されたチョコがけバナナの端から、今にも落ちそうに垂れたチョコを見た元親は咄嗟に両手ですくうようにそれを受け止めた。
「おわぁ、どんだけつけてたんだよチョコレートをよぅ」
 元親の両手には結構な量のチョコがべっとりとついている。
 慶次はそんな様子の元親に慌てる風もなくバナナを皿に置くと言った。
「ごめ〜ん元親、チョコつけすぎちゃったみたいだね、まってて今拭くものを・・・・ああ、でも拭いちゃうとチョコがもったいないよねえ、せっかく皆から貰ったチョコだし・・・」
「はぁ?・・・」
「え?だって義理チョコでも皆がくれたものをゴミ箱にポイするのはちょっと申し訳ないでしょ、だから元親、そのチョコ俺が食べてあげるよ!」
 慶次の言葉を元親は一瞬理解できなかった、がすぐにその言葉を思い返し頭の中で確認すると一気に体温が下がった気がした。
「え?ちょ、ちょっとまてよ、食べるってどういうことだ?」
「ああ、だから、元親の手についちゃったチョコを俺が食べてあげるって言ったんだよ、だってもったいないでしょう?」
「お・おぉ・・・そうだけど・よぅ、どうやって・・これ喰うんだ?」
「ははは、元親、そんなの『舐める』に決まってんじゃない!!」
 元親の疑問ににっこりと答える慶次。
 そんな慶次を見て元親は更に体温が下がったように感じた。
「ま・ま・ま・ま・まてよ、慶次!舐めるってよぅ、こんなバレンタインの夜に男の手を舐めるなんてそんな悲しいこと言うなよ、おめえが優しくていい奴だって事は充分わかってるからよ、これは自分で食べるから、気持ちだけで充分だからよ」
 元親は慶次にそう言って引きつる顔で笑って見せる。
 だが、次の瞬間チョコのついた両手を慶次がガッチリと掴んだかとおもうと自分の方に元親の身体ごと引き寄せた。
「おぁぁ、慶次ぃ?!」
「ふふ、元親そんなこと言わないの、今日はバレンタインだよ、俺もチョコ食べたいし、それに元親って色白だからチョコがとっても似合って美味しそうだよ」
「は・はは、な・何言ってやがんだぁ慶次、冗談もたいがいにしろよぅ・・・おぁ!?」
 元親はそんな慶次から逃れようと、引きつる笑顔のまま身体をジタバタと動かしてみる、しかしガタイの良い元親よりも更にガタイ良い慶次は元親の両手を片手で掴んだまま、元親を逃すことはなかった。
「ああ、ほら元親暴れちゃあ駄目だよ、チョコが絨毯に落ちちゃう、まってて、今俺が舐めてあげるから」
 慶次の笑顔に薄っすらと怪しい色が掛かる。
 慶次は暴れる元親もなんのそのその両手についたチョコを舐め始めた。
「うん、このチョコ美味しいねえ、まあ見た目はちょっとあれだけど、味はいけるよ、それに元親の手の平も良い舌触り!」
 『クスリ』と笑いを含むような慶次の言葉、元親は引きつり顔を青ざめさせながら慶次に警告するように言う。
「け・慶次!本当に冗談もたいがいにしやがれよぅ、お・俺なんか美味くねぇぞぅ・・ひゃぁ!?」
 言葉で抵抗を示す元親の声が上ずる、元親の手を舐める慶次のもう片方の手がシャツの中に入ってきたのを感じたからだ。
「うぁ、ま・マジ、やめろって・・慶・次・・ふぁぁ」
「もう遅いよ、元親!今日は元親をチョコフォンデュでいただきま〜〜〜」
『ドゴンッ!』
「何?」
 その時、慶次が『いただきます』の『す』を言いおわる正にその瞬間、先ほど慶次が蹴破った玄関が部屋に響くような音を立てた。
 そして、それに続くようにけたたましくいがみ合う声が二つ元親達のいるリビングへと向かってくる。
「HEY、元親、玄関なんで壊れてんだ?居るだろ?」
「伊達、貴様、断わりもなく他人の家に上がりこむつもりか?」
「A〜N、俺と元親はそうゆう仲なんだよ」
「貴様、聞き捨てならんことをほざくな!長曾我部は今夜は我のパーテーに出席するのだ」
「HA、約束してんのか?」
「約束などはいらぬ事よ」
「HAA?約束なしでその態度かよ、HEY、元親!居るだろ?」
 声の主は元親の友達伊達政宗と幼馴染の毛利元就、激しく言い争いながら元親が居るリビングになだれ込むように入ってきた。
「HEY、元親?・・・・・?!・前田あ?!・・てめえなにやってんだ!」
 元親達の前に現れた二人が目にしたのは、元親をいただこうとしている前田慶次。
「あら〜、二人とも来ちゃったね〜、これからだったのになんで今日に限って来ちゃうの?」
 これからという時に現れた二人に慶次がちょっとだけ拗ねような言い方でそう言う。
「てめえ〜前田あ、これからじゃないわあ〜〜、元親に何してやがる!!」
「そうだ、前田、貴様今日という日に長曾我部に手を出すなど言語道断、さあ、おとなしく長曾我部を差し出せ」
「ああ?」
 慶次も慶次だが元就の発した言葉に全員が元就を見る。
「What?毛利何言ってやがる、差し出せだあ?ふざけるな元親は俺のもんだ!」
「ええ?政宗、それは言い過ぎじゃない、元親は皆のものだよ」
「HA?皆のものってなんだそれは?」
「そうだ、前田、伊達の言うとおり、皆のものというのは納得がいかぬ」
 当の元親を差し置いて、エキサイトする3人。
「HAN、元親を皆のものと言ってるおめえが手を出してんだろうが、ああ?前田あふざけんじゃねえぞ」
「ええ、だって今日はバレンタインじゃない、ロマンティックな夜に元親と2人っきりになりたかっただけだよ」
「2人っきり?前田、貴様それは皆が思っていることぞ」
「AA、そうだ、今日、元親と二人で過ごすのはこの俺なんだよ」
 なぜだか、自分をめぐって繰り広げられる修羅場に元親はめまいを覚える。
 元親はこの状況に失神したくなっていた。
 すると政宗が一言、言った。
「OK、わかった、まあ薄々は気付いていたがよ、今日はいい機会だ、元親がだれのものかきっちりケリをつけねえか?」
 元親の思考が停止を宣告し始めた、だがこのままだと、とても自分に拙い展開になりそうだと、元親は勇気を出して3人に言った。
「ちょ・ちょっとまておめぇ等、お・俺は誰のものでもねぇぜぇ、俺は俺のものだ、誰の者でもねぇ!!」
 するとその言葉に、3人は元親を見る。
 政宗・慶次・元就3人それぞれがお互いを見るように目をあわすと、それぞれが薄ら笑の顔をした。
 3人は声をそろえて言った。

『おめえ(貴様・元親)は黙っろ!!(てて!!)』

2月14日バレンタイデー・夜 元親をめぐる争奪戦が一晩中続いたのは言うまでもない。
(そしてチョコフォンデュも盛り上がったのは言うまでも・・・・ない。薄笑)

おしまい
(落ちない・・・・・汗)

いちご松林檎


えへへ・慶チカが書きたかったんだけど、やっぱり政宗と元就が許してくれませんでいた的な・・・。汗〜〜〜〜。


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