昼間の暑さとは一変した初夏の夕暮れ。
薄暗くなりかけた空に涼しい風が吹き降りる。
空一面の蒼と赤が、様様な形の雲を美しい紫の蒔絵に作り上げていく様は、其処にあるのに手の届かない最高級のお宝だと思う。
港に泊めた船の上、その見張り櫓の上で政宗と元親は杯を手に二人空を見上げた。
「はは、綺麗〜な雲だなぁ」
元親の声が風に乗る。
だが、何時もなら何処からとも無く返される野郎共の言葉が聞こえてこない。
今、元親の船には、数人の船番と政宗と元親しか居なかった。
「It is
unusual、珍しいことだな、おめえの船が静かなんてよ」
「あぁ、確かにそうだなぁ、なんだぁ野郎共達は町に繰り出したみてぇだな」
「Ha〜n、そいつはなかなか、気が利いたことをしやがる連中だ」
「あぁ?なんで?」
「An、分からないのか?俺とおめえを二人っきりにしてくれたってことだぜ」
政宗が空を見上げていた顔を元親に向ける。
するとそんな政宗を、薄暗い紫の光がその輪郭を絵のように浮かび上がらせた。
遠くの空の雲の模様が、まるで政宗の頭から三股に分かれた角を生やしたように写りこみ、まるで龍の化身の様である。
元親は政宗と同じように空を見上げた顔を政宗に向けると、その姿に魅入られるように一瞬止まり、思わずニヤけるように顔を崩しながら言った。
「政宗、おめぇイイ男だなぁ」
「What、今頃気付いたのか?」
「あぁ?いやそうじゃねえけど・・今さっき、政宗が龍に見えたぜ」
「俺が龍に?HaHa!俺は独眼龍だぜ、龍に見えて当然だ」
元親の言葉に、不敵な笑顔でそう言う政宗。
元親はそんな政宗らしい政宗の言葉に、大きく笑うと杯の酒を一気に飲んだ。
二人の目の前の空の色が、紫から藍そして群青色に刻々と変化する。
二人はもう一度空を見上げると、その色の変化を楽しんだ。
すると不意に政宗が言った。
「Hey元親、さっきの続きだがよ、だったら俺がイイ男だって、何時ごろ気付いた?」
「あぁ?何時ごろって・・・・・・そうだなぁ・・・・初めて会った戦の時かぁ・・・」
「Hu〜、そいつは驚きだなぁ、じゃあなんでその時言わなかった?」
「はぁ?!その時って、お互い戦っていただろぅがよ」
「Yes、だが俺はその時のおめえにグッときて、おめえを俺のものにすると決めたんだぜぇ」
元親は、政宗の言葉に呆気に取られるようにまた政宗を見る。
すると、今さっきまで空を見上げているとばかり思っていた政宗の視線が、元親の視線を絡め取った。
「Hey
honey どうして言わなかった?教えろよ」
元親と政宗の視線が一つの線で繋がると、元親は逃げられないと観念をする。
そして、ほんの少し間を置くと、何時もよりか小さな声で政宗に言った。
「教えろって・・・おめぇ・・・・・・なんだぁ・その時よ、奥州の独眼龍に・・なんだか喰われちまいそうだと・・・思ったぜ・・・」
「Is it
true?本当か?」
「あぁ、始めて会った時・・・惚れちまいそうで・・怖かったな」
元親の言葉に、政宗の目が大きく見開く、そしてそれに続くように不敵な笑顔が大きく歪んだ。
「Ha!HaHa!元親!そいつは凄えな!最高の殺し文句だ!」
「はぁ?殺し文句う?」
「Aa、俺とおめえは、初めて会った時、お互い一目惚れだったということさ」
「ひ・一目惚れって、俺は惚れたとは言ってねぇぜ・・」
「怖かったんだろ?同じことだ!」
二人を包む周りの空気が空の色を受け入れる。
空一面が青い闇へと変化すると、2人もまた二つの影に変化した。
「見ろよ、政宗、おめぇが変なこと言うから、夕暮れの最後見逃しただろ」
「An?そうじゃないぜ元親、俺とおめえのこの状況に空が気を利かせたんだぜ」
「は?気を利かせるぅ?」
「Aa、」
夜の闇が作った二つの影が一つの影に変化する。
そして、静かな空気に政宗の言葉が静かに流れる。
「俺とおめえが、いつまでもこうやっていられるようにな」
一つの影は暫くそのまま、夜の闇に包まれていたのであった。
おしまい
2012/06/17 いちご松林檎
恐惶謹言・十二鼓で配布したペーパーのSSです。
元親に「イイ男」と言わせたかったため出来たSSです。
元親は政宗にほれてる部分をチラリと見せるといいとおもいます。
きっと政宗はそんな元親に萌〜〜〜ってなると思いますから(笑)