**自分にできる事**
(この地に願いを込めて)


 まだ寒い北風が政宗の頬をかすめる。
「まだまだ、此処がGreenに染まるのは先だなぁ」

 馬の背に跨ったまま、広がる景色を眺めながら政宗がそう呟く。
 政宗の目の前に広がる景色は、土の色がひろがっていた。

 かつて此処は緑に覆われた農村であった。しかし、数ヶ月前に季節外れの大雨が降り、
山肌が突然の雨にその重量を増し崩れてしまったのであった。
 政宗の目には今だ多くの土が残されたこの村の現状が居たたまれなく映ってしまう。
 そんな政宗の後方から、これまた馬の背に跨った小十郎が近付くと、その呟きに同調するように控えめに言った。

「そうですねぇ、季節もまだ寒いですから・・・」
 政宗は、そんな小十郎の言葉を耳で受けながらも、今の現状に心が痛む。
 この村、いや戦の時もそうであったように、奥州の民が苦しんでいるのは、上に立つ自分の力が足りていないのだと
まざまざと見せ付けられているのだと心の中に刻み込まれる。

 政宗は今自分が此処の上に立っていられるのも、自分を慕ってくれる民や兵や家臣がいるからであることを十分理解
しているつもりなのだが、いざ大きな事態が起こると、その対処に落ち度は無かったのかと心の中でそんな思いが堂々巡りをしてしまう。
 だが政宗は普段はそんな思いなどは一切外には表すことはない。するとそんな政宗の心情を察したのか、小十郎がまた口を開いた。

「政宗さま、ですがよく見てくだせえ、所々に薄っすらと緑があるのが分かりますか?あれは早蒔きができる作物の種を蒔いたところです。
確かに、豊かだった田や畑はなくなってしまいましたが、残された者達が今元の村にいや、それ以上になるように頑張っております。
それに手の空いた我等の兵や近隣の村の者達、及ばずながらこの小十郎も手伝っております。確かに今直ぐには無理ではございますが、
少しづつ進んではいるのです」
 政宗は小十郎の言葉を聞きながら、確かに薄っすらと緑っぽく見える辺りを見つけて眺める。
 その辺りには何人かの村人が作業をしているのが見える、そしてそのうちの一人が政宗達に気付くと、皆が次々と会釈をするように
政宗達に挨拶をした。

「ああ、皆が政宗様に気付いたようですね」
 政宗はその民の姿に手を上げて答えた。
 小十郎はそんな政宗に続けるように言った。

「政宗様、貴方はこの地を治める者として大きな不安などを抱えるでしょう、ですが民の力を信じて見守ってください、
それが今は貴方の役目だと俺は思います。」
 政宗は、小十郎の言葉に少しだけ目を閉じまた開いた。

 小十郎はそんな政宗を見たあと、不意に後ろを振り向いた。
『ザッザッザッ』
 政宗達の後方から、少し重たそうな馬の蹄の音が聞こえる。
「An?誰だ?」

 その音に政宗が振り返ると、その目に見知った姿が映った。
「元親・・」

 政宗は突然現れた元親に驚きの声を思わず漏らした。すると小十郎はまた言った。
「政宗様、それに貴方には、貴方にしかできない事もたくさんあるのですから」
「What?どういう意味だ?」

 政宗の言葉に、小十郎が少しだけニヤリと表情を崩す、すると何かを担いだまま馬に跨った元親が二人の側にやって来た。
「よぅ、兄さん持ってきたぜぇ」

 元親は政宗達の横に馬を着けると、相変わらずな豪快な笑顔で『よっこらせ』と言いながら馬を下りる。
 すると小十郎もそれに合わせたように馬を下りると、元親が重たそうに担いでいた荷物を受け取った。

「西海の鬼、ウチの馬に重たいおめえと荷物を乗せやがって、馬の足が折れたらどうする」
「あぁ?奥州の馬はそんなに軟弱かぁ?はは、相変わらずだな、右目の兄さん」
 久しぶりに会ったにも関わらず、元親と小十郎は冗談交じりの挨拶を交わす。

 そんな二人を、政宗は不思議そうに眺めた後、ふと我に戻ったように元親に声をかけた。

「Hey元親、来るとは聞いてなかったぜ」
「あ?あぁ、そうなのかぁ?俺ぁ右目の兄さんから、連絡をもらってよぉ」
「連絡ってなんのだ?」
「何のって、いろんな地のよぉ、作物の種や稲だ」
「作物の・・・」

 元親の言葉に政宗が小十郎を見る。
 すると小十郎はニヤリと崩した顔をそのままに政宗に言った。
「西海の鬼の船が寄った地の作物の種などを頼んでおいたのです。まだこの地で作ったことの無い作物もあると思いますが、
もしかしたらこの地でも早く多く取れる作物が見つかるかもしれないと思いまして」

「小十郎・・」
 政宗は小十郎の言葉に、目の前の景色に目をやった。

「西海の鬼、すまなかったな、これだけのモノを集めるのは大変だっただろう」
「なあに、馴染みの商家なんかに頼んでおいたのよ、だから俺は集めて回っただけだ。それに、種は多ければ多いほどいいと、
いつも世話になっている奥州の独眼龍のその右目の頼みだからなぁ」

 政宗は元親の言葉に、もう一度その目を閉じる。
『俺だけにしかできない事、それぞれができる事か』
 小十郎が言った言葉の意味を自分なりに消化する。
 そして閉じた目の奥に、今まで見たこともないような植物で緑一杯になったこの地を思い描いた。

「Hey小十郎、手の空いた兵達を呼べ」
 突然、政宗が大きく小十郎にそう言った。

「は?いかがいたされました、政宗様?!」
「An?せっかく元親が種を届けてくれたんだ、さっさと蒔かねえと勿体ねえだろう」
「え?いや、政宗様、種を蒔くにも手順と言うものがありまして・・・・」
「Ha?手順?!・・・」
 政宗と小十郎のやり取りに、元親が大きく『がはは』と大笑いをする。すると、二人も少しだけ釣られて笑った。

 三人は仕切り直しの為に一旦伊達の屋敷に戻った。
 その道すがら元親から聞いたことに、政宗はもう一度小十郎からの言葉を噛締めたのであった。

「そうそう、家康とか島津のじっちゃんとか、他いろんなヤツからもいろんな物を預かってきたぜ、使えるモンがあったら
使ってくれって独眼龍に伝えてくれとよ、石田とか毛利とかからもなぁ」

 政宗はもう一度目の奥に描いた風景を呼び起こす。
 どうかこの目の奥の風景が、一日でも早く実現しますように。


終わり


※このSSはパインの個人的な思いから3/11に書きました。もし、これを読んで気分を害されたいらっしゃいましたら。申し訳ありませんでした。
そして、あえて災害を土砂崩れにして書きました。気分を悪くされた方がいましたら申し訳ありませんでした。m(__)m

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